2016年11月1日火曜日

北アルプス・笠ヶ岳鉱山

新穂高温泉と言えば、今では、北アルプス有数の登山基地であり大観光地でもあるが、終戦までは、笠ヶ岳鉱山の事務所・宿舎だったことを知る人は少ない。

笠ヶ岳鉱山、その名は日本アルプス周辺の地質調査所資料で目にしていた。笠ヶ岳第2尾根標高1900m付近にあるとのこと。しかし、いつの間にか忘れてしまっていた。ところが、先日、本格派山岳探石マニア氏のブログ
プロローグ「笠ヶ岳鉱山」
を覗くと、笠ヶ岳鉱山への思いが綴られており、興味が湧いてきた。そこで、もう少し調べてみることにした。

終戦後もしばらく宿舎は残っていた。往年の名クライマー松濤明(まつなみあきら)は風雪の槍ヶ岳北鎌尾根にて壮絶な遺書をしたため斃れたが、その生き様は山岳名著「風雪のビバーク」となった。彼も、笠ヶ岳鉱山宿舎を登山基地としていた。そして、鉱山で働いていた女性と親しくなり、遭難当時、その女性は還らぬ彼の姿を求めてその宿舎まで通った、という悲話がある。
松濤明と笠ヶ岳鉱山

図書館で、当時、鉱山事務所で働いていた女性の「笠ヶ岳鉱山の思い出」という寄稿を読んだ。通称「岳(だけ)」と呼ばれていた採鉱現場や槍ヶ岳のてっぺんまでハイキングに連れていってもらったことも記されていた。思わず、その女性の郷愁の念に引き込まれてしまった。

そんな折、気候も良くなり、足の調子の確認も兼ねて、1週間程度の石旅に出かけようと思い立ち、飛騨~信州~会津~新潟、と線を引いた。最初の訪問地としてふと思いついたのが、この笠ヶ岳鉱山。もとより足不安もあり「岳」まで辿り着こうという大それた考えは毛頭なく、3ノ沢出合あたりまで行き、久しぶりに紅葉の北アルプスを眺められれば上等と考えた。

すると、くだんのブログに決行記録第一報がアップされた。
「笠ヶ岳鉱山」天空の鉱山へ・・・アプローチ
核心は第二報なので、直接問い合わせたいのは山々だったが、膝故障老人アルプス沢歩き単独行なんぞ、はたから見れば白眼視は必至なので遠慮してしまった。もちろん、約半年ぶりの山歩き、ヘルメットを被り、軽登山靴に足底版を入れ、膝サポーターを巻き、ダブルストックで万全を期した。

自宅発7時、新穂高温泉無料駐車場着12時少し前。最奥の有料駐車場の方が良かったか?でも、そこそこ眠ることができた。ペースを押さえてゆるゆると歩き始める。

<新穂高温泉より笠ヶ岳>


<蒲田川林道より笠ヶ岳>


<林道終点より正面に2ノ沢>


<林道終点より新穂高温泉>

 
石飛びして対岸に渡り、赤テープの目印を追う。

<穴毛谷>


<大切坑ズリ>


ズリの上が気になるが、帰路の楽しみにと、先へ進む。

<2.5ノ沢出合>


ここで、石飛びして対岸に渡るが、スッキリとしたルート取りが出来ず、かなり藪に絡まれた。河岸台地上、大岩壁の近くを進むと、対岸に3ノ沢が見える。

<3ノ沢>


石飛びして対岸に渡り、出合のガレをちょっと登ってみたが、道跡らしきものが皆無なので、だめもとで3ノ沢を少し登ってみると、ピンクテープが見えるではないか。これはもしかしたらマニア氏のものかと思い、とりあえずそこまで登ってみることにする。

さらに上にもテープが見える。斜面がザレていて滑りやすいので、念のため、ピンソール(簡易スパイク)を装着する。テープに導かれるようにして、藪を掻き分け、休み休み喘ぎ登るが、とうとう、ちょっとした岩屋のところで途絶えてしまった。

<最高到達点>


<「岳」はあの彼方か?>


2~3回上部に行きかけたが、時刻と体力を勘案して、後ろ髪を引かれながら、下山と決める。途中、昔なつかしい穂高連峰が見えたが、雲が多いのが残念だ。

<穂高連峰を遠望>


<北穂高岳>


<穴毛谷上部>


3ノ沢出合から2.5ノ沢までは、往路通り辿れず、さらに藪に絡まれてしまった。お楽しみの大切坑ズリ上の台地に上がってみると、奥行きは10mもなく、藪がひどく生い茂っていて、封印された坑口らしきものがあった。

<大切坑口?>


何もないので、ズリを下り、下流側から眺めていったが、何も見いだせず途中で打ち切ってしまった。後になって考えると、上流側の赤茶けたところをチェックすべきだったか?

けっこう足に来て新穂高温泉へ帰着。深山荘で入浴し、少し下った店で夕食を済ませ、糸魚川へ向けて移動。

なお、一週間の旅が終わるころ、第二報がアップされていた。
「笠ヶ岳鉱山」断念・・・
出来れば来春にも再チャレンジしたいとのこと。さて、おじさんはどうしよう?・・・。

それは行かない選択肢はない。マニア氏の鉱山従事者への聞き取りによれば、

太陽光が当たりキラキラ輝き、当時は飛行機からも確認できたと言う・・・そのズリを歩くと・・・ズリに堆積した黄色や茶色、紫色に染まった無数の細長い水晶が、チャラチャラと音を立てて流れていた

そうだから!!

<参考タイム>
10月20日:新穂高温泉(1050m)6:10~7:15穴毛谷林道分岐7:30~7:50林道終点(1350m)8:00~8:15大切坑ズリ8:25~8:452.5ノ沢~9:303ノ沢出合(1550m)~取付き10:10~11:30最高到達点(1750m)12:05~13:453ノ沢出合~14:40大切坑ズリ15:20~16:55新穂高温泉


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4 件のコメント:

bandlover さんのコメント...

お~、行かれましたね!!!
別のところにコメントがあり、報告されるか・・お待ちしておりました

膝は大丈夫でしたか?
写真で見ると大石ゴロゴロで、自分の実力ではせいぜい、大切抗前だと思いました

図書館で見つけてきた3枚組の地図の1枚に坑口や索道がありこれを眺めておりました

追伸
資料送ったのですが、アドレスエラーのようで、連絡あればいいなと思っています
11月と12月の2回大阪に行きます

迷山漫幽 さんのコメント...

>お~、行かれましたね!!!

いや~、予想以上に疲れ果てましたね。半年ぶりの山歩きだから仕方ないですね。

>膝は大丈夫でしたか?

たまにシクシクするくらいで大丈夫でした。しかし、調子に乗るのは禁物だと思っています。

>写真で見ると大石ゴロゴロで、自分の実力ではせいぜい、大切抗前だと思いました

大切抗までは、容易ですが、一度、谷を渡るので、増水時は要注意かもしれません。

そこ以遠は、ロッククライミングの技術は特に必要ないですが、谷歩きのルートファインディング(ルート選択)の経験が少ないと、いたずらに時間を要したり、疲労したり、危ういルート取りをしたりすることになり、それが事故の遠因になるかもしれませんね。

>図書館で見つけてきた3枚組の地図の1枚に坑口や索道がありこれを眺めておりました

昔と今では、測量技術の進歩でしょうか、かなり等高線が異なっていますね。昔の情報を今の地図に移し替え、岩記号や等高線の込み具合を見ながら、安全なルートを模索するのも楽しいものです。

Lime さんのコメント...

まんゆう様

笠が岳鉱山のアプローチお疲れ様でした! こうして大変さを共有して頂ける方がいる事が、とても心強く思う今日この頃です。
ピンクテープ探してくれてありがとうです!

早速ですが、私のブログから・・・この記事のリンクを貼らせて頂いております。 山岳紀行記のような解り易い文章と、行程表なども付けて頂いているので、これからチャレンジしようとしている人にとっても貴重な記録になる事間違いないと思います。
しかし、普段から歩きなれてない方だと、大切坑までも行けないような感じがしました。 
それから上流部へは、精神的にもあの大岩群を歩く事を楽しみと思えなければ、その疲労から事故が誘発するかもという危険性がとても高いと思っております・・・

実は私たちは、三ノ沢からのアプローチが困難だとしたら、二ノ沢と三ノ沢の間にある、通称「間の沢」からアプローチも考えていました。 でも現地確認では相当厳しそうに思えましたね!
旧鉱山道が残っているように見えたので、結局「間の沢」からのアプローチはしていませんが・・・

大切坑は埋没しているのでしょうか? 私のお聞きした情報では大きな穴が開いていると話してくれた方がいました。
こんどチャレンジできたら、確認してみたいですね!

昔の鉱区地図では、測量技術の進歩が顕著に表れますね・・・まず等高線がかなり異なっているのと、ここのように常にがけ崩れが起こっているような場所では、大きなズレが出てくることは仕方ないと思っております。
そして、やっぱり現地確認はそのダイナミックスケールを味わう事が出来るのでいいですね!

まんゆう様が撮影した、「断念した大岩が点在する場所の写真」を見るたびにこの場においてもとても悔しく思います。(笑)
「春先になったらチャレンジ」と言いましたが・・・
でも春先は雪崩が怖そうです・・・随分昔に別の場所で、雪庇崩壊での雪崩に巻かれそうになった経験があるので、ちょっとビビッてます(>_<;)
たしかこの場所でも近年になって、死亡事故がありましよね!

これからこの場所は厳しい厳冬期に入ります。 来年の予定はゆっくりと立ててみたいですね

ではでは・・・

迷山漫幽 さんのコメント...

Limeさま、コメントありがとうございます。

>ピンクテープ探してくれてありがとうです!

いや~、テープがなければ3ノ沢で引き返していました。おかげさまで穂高連峰を拝むことができました。

>しかし、普段から歩きなれてない方だと、大切坑までも行けないような感じがしました。それから上流部へは、精神的にもあの大岩群を歩く事を楽しみと思えなければ、その疲労から事故が誘発するかもという危険性がとても高いと思っております・・・

確かに、多少なりとも谷歩きの経験がないと、肉体的にも精神的にも余裕がなくなり、事故につながりかねないと思いますね。大切坑まででも流れを渡らないといけません。もし上流で夕立があれば鉄砲水でお陀仏です。

>実は私たちは、三ノ沢からのアプローチが困難だとしたら、二ノ沢と三ノ沢の間にある、通称「間の沢」からアプローチも考えていました。 でも現地確認では相当厳しそうに思えましたね!

「2.5の沢」などと勝手に命名しましたが、「間の沢」でしたか!!地図では厳しい滝が潜んでいそうです。滝さえなければ最短距離なんですが・・・。岩登ら~さんやクライマーさんなら泣いて喜ぶかも知れませんが私はまっぴらごめんです。

>大切坑は埋没しているのでしょうか? 私のお聞きした情報では大きな穴が開いていると話してくれた方がいました。

石垣があってその一部が昔見た封入坑口みたいな様子なのでとりあえず断定しました。その上部はさらに激やぶですが、登ればひょっとして何かあるかも知れません。

>そして、やっぱり現地確認はそのダイナミックスケールを味わう事が出来るのでいいですね!

そういう感動は現在の登山ではなかなか味わうことができません。最近の登山はネット記録のトレースで発見の楽しみが少ないように思いますね。

>まんゆう様が撮影した、「断念した大岩が点在する場所の写真」を見るたびにこの場においてもとても悔しく思います。(笑)
「春先になったらチャレンジ」と言いましたが・・・
でも春先は雪崩が怖そうです・・・随分昔に別の場所で、雪庇崩壊での雪崩に巻かれそうになった経験があるので、ちょっとビビッてます(>_<;)
たしかこの場所でも近年になって、死亡事故がありましよね!

おぼろげながら記憶があります。山スキーヤーや砂防工事の人が何人か埋没したと思います。

>これからこの場所は厳しい厳冬期に入ります。 来年の予定はゆっくりと立ててみたいですね

そうですね~、残雪・雪渓・水量・日照時間など考慮すると、時期が悩ましいですね。来年の夢としたいと思っています。

ではでは・・・・